【キャリア紹介】地域の暮らしに入り込む仕事。訪問マッサージ師が語る、13年の現場と独立の本質。|訪問マッサージ いぶき あん摩マッサージ指圧師 土屋息吹先生

お話を伺った方
土屋息吹先生
訪問マッサージ いぶき|あん摩マッサージ指圧師 土屋息吹先生
「施術者の幸せが、良いケアを作る」——訪問マッサージ専門院「いぶき」を創業して13年。愛知県小牧市を拠点に、地域の利用者様の日常生活を支え続けてきた土屋息吹先生に、訪問マッサージという業態の本質と独立への道のりをうかがった。
訪問マッサージという業態——「生活に入り込む」という仕事
──そもそも訪問マッサージとはどんな仕事か、学生にひと言で説明するとしたら?
土屋息吹先生 ひと言で言うと、『その方の生活の場に出向いて行う医療』です。病院や鍼灸院に来られない方——脳梗塞後遺症や老衰など、自力での外出が困難な方が主な対象です。場合によっては医療保険が適用されることもあり、患者様の自己負担が少なくて済むケースもあります。施術者が車で利用者様のご自宅や施設に伺い、マッサージや機能訓練を行います。
──1日はどんな流れになりますか。
土屋息吹先生 朝は自宅から直接最初の訪問先へ向かいます。移動は車で、夕方には直帰する完全直行直帰スタイルです。院に戻る必要がないので通勤の無駄がない。訪問先では利用者様のお宅や施設の一室で施術しますから、治療院とは全然違う環境ですね。ご家族がいらっしゃることもありますし、その方の暮らしそのものの中に入っていく感覚です。
──訪問マッサージを仕事に選んだきっかけを教えてください。
土屋息吹先生 鍼灸接骨院や訪問院での経験を経て、もっと利用者様一人ひとりと深く関わりたいと思ったのがきっかけです。訪問では、その方の生活や人生に寄り添いながら関われることに大きな魅力を感じました。
──外来と訪問、どんな違いを感じますか。
土屋息吹先生 外来では痛みを取る・動きを良くするという結果が求められます。訪問ではそれとは少し違って、脳梗塞後遺症や老衰に付随する疾患など、「改善」よりも「この症状とどう付き合っていくか」「困難になっている生活をどう解決するか」という視点が求められます。ご家族が望むこと、ケアマネが求めるライン、利用者様本人の気持ち——それを総合して介入しなければいけない。生活環境まで含めて考えられるのが面白いところでもあります。
──やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか。
土屋息吹先生 利用者様の身体が良くなることはもちろんですが、「最近よく笑うようになった」「外に出たいと思えるようになった」といった生活そのものの変化を感じられた時です。ご家族や施設の方から感謝の言葉をいただけるのも嬉しいですね。
23歳の自分を変えた、一本の電球
──訪問の現場で印象に残っているエピソードはありますか。
土屋息吹先生 開業まもない頃のことです。高齢のご夫婦が二人暮らしをされていた訪問先で、「廊下の電球が切れた」という一言がありました。当時23歳の自分はあまり深く考えずに、施術後に電球を交換しました。
──その後、何が起きたのですか。
土屋息吹先生 「昨晩は電気がつかなくて、夜中のトイレで転びそうになったんだ。これで安心だ」とおっしゃったんです。自分からするとちょっとしたことが、身体が不自由な方にとっては危険につながる。身体の症状だけでなく、それが生活にどう影響しているか、生活環境に危険が潜んでいないか、総合して見なければいけないんだと強く感じました。感謝していただけた嬉しさとハッとした気持ちが、今でも一番印象に残っています。
──その経験が、今の先生の仕事観に影響していますか。
土屋息吹先生 はい。身体だけでなく生活全体を見る、という視点はあの頃から自分の中に根付いています。そしてもう一つ、当時の忙しさに追われる働き方の中で気づいたことがあります。施術者自身に心の余裕がなければ、本当の意味で利用者様のためになるケアはできない。それがいぶきの理念『施術者の幸せが、良いケアを作る』につながっています。
「施術者の幸せが、良いケアを作る」——理念を形にした働き方
──17時で施術を切り上げているのもその考えからですか。
土屋息吹先生 そうです。17時まで集中して今日の仕事おわり、の方が年間通して安定して働けます。高齢の方は17時以降の施術をあまり歓迎されないケースも多いので、そこは明確にラインを引いています。生活の安定、心の安定、健康の安定——心身健康でプライベートも充実しているからこそ、利用者様への良いサービスにつながると考えています。
23歳、社会経験も未熟なまま飛び込んだ独立
──独立を決意したのはいつ頃ですか。
土屋息吹先生 23歳の時です。もっと自分の理想とするサービスや働き方を実現したいと思い、挑戦を決意しました。
──不安はありませんでしたか。
土屋息吹先生 社会経験も未熟な自分が、利用者様・ご家族・介護事業者の方々に選んでもらえるか、受け入れてもらえるかという不安はありました。でも実際やってみて分かったのは、技術の良し悪しよりも、相手の気持ちを真に汲み取ること、信頼を積み重ねることが一番大切だということです。元気ハツラツ、明るさを毎日安定して届けられるかどうか。今でも一番大切にしていることです。
──開業で一番大変だったことは何ですか。
土屋息吹先生 施術以外のすべてが初めてでした。営業、書類、関係者との連携——そのバランスを取ることが一番大変でしたね。
──13年続いてこられた理由は何だと思いますか。
土屋息吹先生 一人よがりの施術に走らず、利用者様・ご家族・ケアマネジャーなど、たくさんの方との信頼関係を大切にしてきたことだと思います。介護の方と「ベストを尽くせましたよね」と共有できる瞬間や、ご家族から感謝の言葉をいただける時に、「またこれからも頑張ろう」と思えます。
独立を考える若い治療家へ
──将来独立を考えている学生にアドバイスをお願いします。
土屋息吹先生 技術ももちろん大切ですが、人との信頼関係を築く力はそれ以上に大切です。訪問では、患者様本人の気持ち・家族が望む結果・介護事業者が求めるラインを総合して介入しなければいけない。「自分だけがよし!治します!」という一方通行ではいけません。
──技術以外で、特に意識してほしいことはありますか。
土屋息吹先生 まず大切なのは、介入したときに悪化させないこと。焦らず、出会う症状への向き合い方を一つずつ学んでいくことです。出来るからやる・分かるからやる、ではなく、まずやってみて、何が分からないのか課題を見つけて、どう解決できるか考えて、諦めずに探求して行動していく。それが大切だと思います。
いぶきで働くということ
──どんな人に来てほしいですか。
土屋息吹先生 利用者様に誠実に向き合える人です。経験よりも、いつでも明るく立ち回れること、人を大切にできる気持ち、素直に学ぶ姿勢を重視しています。仕事の時間はプロとして毎日自信を持って明るく立ち回る。意識から自分を創る、これが大事だと思います。
──未経験のスタッフへのサポートはどのように行っていますか。
土屋息吹先生 同行訪問からスタートし、一人ひとりのペースに合わせて段階的に指導します。大手さんのように体系化されたカリキュラムはありませんが、少数精鋭だからこそ先生一人ひとりの現状や課題を見極めて、柔軟に最適化ルートで成長をサポートできます。皆で一緒のペースで成長しよう、ではなく、一人ひとりの課題にコミットしていきます。
──将来、いぶきをどんな組織にしていきたいですか。
土屋息吹先生 一番は、「いぶき」ではなく、「いぶきには〇〇先生がいるよね」と言われる、一人ひとりが主人公になっているチームです。組織に埋もれず「自分らしい」で働けている、それを実現できる場所にしたいですね。ここ数年は新規のご依頼が拡大し、2025年から本格的に仲間集めをスタートしました。今までの経験と地域での信頼をもとに、一緒に創っていってくれる方を待っています。
取材協力:訪問マッサージ いぶき 土屋息吹先生

